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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和52年(ラ)3号 決定 1977年3月23日

抗告人 本井やえ(仮名)

主文

原審判を取消す。

本件を富山家庭裁判所氷見出張所へ差し戻す。

理由

一  抗告人の抗告の趣旨および理由は別紙抗告状<省略>記載のとおりである。

二  よつて検討するに

1  本件記録によれば、抗告人は昭和二七年二月一六日事件外坂田律男と婚姻し、事件本人両名ほか二名の子を儲けた後昭和四八年一一月一三日調停離婚したが、その際事件本人両名の親権者は父である坂田律男、その余の二名の子の親権者は母である抗告人と定められたこと、坂田律男は事件本人両名につき後見人を指定することなく昭和五一年一〇月四日死亡し、事件本人両名につき後見が開始したこと、事件本人両名については抗告人において本件親権者変更を申立てたほか、事件外坂田信男が富山家庭裁判所氷見出張所昭和五一年(家)第七五号、同第七六号をもつて後見人選任を申立てたもので、原裁判所は昭和五二年二月一五日右親権者変更申立を却下した本件原審判をなすとともに、右各後見人選任申立事件につき抗告人を後見人に選任する旨の審判をなし、右審判はそのころ抗告人に告知されたことが認められる。

2  ところで、本件のように離婚の際未成年の子の単独親権者と定められた親が死亡した場合、家庭裁判所は子の親族の請求により親権者を離婚の際親権者とならなかつた他方の親とすることができるものであり、そのことは単独親権者の死亡によつて開始した後見について既に後見人が選任されている場合であつても同様である(死亡した単独親権者の遺言によつて後見人が指定されている場合についてはしばらくおくこととする)と解するのが相当である。

すなわち、親権も未成年後見もともに未成年の子のための監護、養育および財産管理の面における保護を目的とする制度であるが、未成年後見の開始事由、終了事由等についての民法の規定に照らせば、民法の基本的な態度は、親子の自然的社会的関係に基盤を置く、親による子の保護を原則とし、後見は親権者たる親がない場合あるいは親の親権行使が制限される場合に補充的にその機能を果すことを予定しているものとみることができる。

従つて後見が開始し、さらに後見人が選任された後であつても、そのことを理由に親権が機能する余地がないと解するのは相当でない。

そして、離婚の際一方の親を未成年の子の親権者と定めることを要するのは、離婚した両親にとつて親権を共同行使することが事実上困難であることによるものであるから、親権者と定められた一方の親が死亡して親権を行なう者が欠けた場合に、他方の親が生存し、それを望み、それが当該未成年者の福祉にそうときは、民法第八一九条第六項の親権者変更の規定を準用し、生存する他方の親に親権を行使する可能性を認めることは、民法の明文に反するものでないばかりか、むしろそう解してこそ民法の基本的態度にも、国民一般の感情にも合致するものである。

なお、前記条項にいう親権者の変更はいわゆる乙類審判事項とされているが、それは家庭裁判所が調停手続を通じて子の福祉に合致するよう親権者や親族を説得し、円満に親権者変更の処分をなすことが事の性質上妥当であるところから調停の対象となりうるように定められたもので、審判の内容を実質的にみれば、家庭裁判所が未成年の子の親族の申立により、子の利益保護の立場から後見的に子のためによりふさわしい親に親権者の地位を与える、という非争訟的性格を有しているものであるから、本件のように単独親権者が死亡している場合には、相手方が存在しないからといつて、親権者変更の審判の申立が不適法になるものということはできない。

三  よつて、これと異なる見解に立ち、本件の親権者変更の申立は不適法であるとして事件本人両名のための各親権者変更申立を却下した原審判は失当であるから家事審判規則第一九条第一項によりこれを取消し、かつ、事件本人両名の親権者を抗告人に変更し、これによつて既に開始した後見を終了させることが事件本人両名の福祉保護の見地から相当であるか否かについて更に審理するため本件を原裁判所へ差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西岡悌次 裁判官 富川秀秋 西田美昭)

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